街の北にそびえるオリンピア山は、その途中から万年雪に覆われている。麓はまだ高山植物が生え、夏になると、色とりどりに美しい花が咲き乱れて、まるで地上の楽園である。しかし高くなるに従って空気は冷え込み、木々もなくなり、真っ白な雪であたり一面が覆われていく。活動的な人は、ウィンタースポーツを、と考えるだろうが、何しろあまりにも険しいためにそれは不可能である。おまけに天候は女心のようにコロコロ変わるため、誰もそんなことを考える人はいない。こちらの心を見透かすように、晴れたかと思えば、次の瞬間、吹雪に見舞われるのだ。
この山には伝説がある。例の大洪水で生き残った人類が最初に流れ着いたのが、この山の頂であるというのだ。とすると、このあたりは、昔はもっと暖かであったのだろうか?しかし問題はここからである。伝説によると、彼らは暗黒時代以前の宝物類を、この山の頂上のどこかに隠したというのだ。そのため、昔からこの山に登ろうとして命を落とす者が後をたたない。私の先祖にも、一人いる。家の言い伝えによると、村の何人かの有志で上っていったらしいが、途中にどうしても登れない氷壁があるらしく、そこでほとんどのものが滑落して絶命するらしい。
しかし、伝説ではただ一人、頂上まで登った男がいるらしい。神話といってもいいくらい昔の話だが。
彼はその頃、この地方を治める蛮族の一人であったようだ。多くの人が宝物目当てで山に挑むのだが、彼は違っていた。自らの勇気を試すために登っていったらしい。なんでも好きな女にそそのかされたという話だ。女はその男があまり好きではなかったので、邪魔者を消そうとしたのだそうだが。
どういうわけか、彼が登っていくと、例の氷壁は草木の生える岸壁へと姿を変え、彼を受け入れた。いとも容易く頂上に達した男は、そこで宝物を見つけたらしい。無事に山を降りてきた男に村の者たちは驚き、宝物はあったかと聞いた。しかし男は何も答えず、黙ったままであった。しかしその顔は表現のしようのないような平安に包まれていたという。次の日の朝早く彼は再び山に向かい、そのまま降りてこなかったと、伝説は語っている。
彼の見た宝物とは一体何であったのだろうか?今となっては誰にも分からない。けれども、それはおそらく限りなく素晴らしいものであったに違いない。なぜなら、今でも、朝、太陽がちょうど山の頂あたりから顔を見せる頃、山の方向に耳を澄ませてみると、彼の厳かなる祈りが、静かに響いてくるからだ。