作 アンバイ 翻訳:わたし
夏の盛りの日、足元の砂は熱く燃え、もはやそこから水気は消えている。激しさを失い、波も静まった海の左方には、砂浜が、遠くまで、砂漠のように広がっている。だが眼は海だけに引き付けられる。白い船が到着した。これは最初の帰還者だ。やがて船が次々と帰港するだろう。船はゆっくりと、白鳥のように岸へ近づいてくる。沖合ではいくつもの輝く点が動き始めた。それらの帰港船を迎えようと、船乗りの妻たちが準備を始める。眼も眩む藍色、刺激的な赤、深い緑、挑むような青。それら艶やかな衣服に身を包んだ彼女たちは、活気にあふれ、白い船の側に立つ。そしてその下には、くすんだ青色と灰白色をした海が広がっている。
今や他の船が明瞭にその姿を現した。船の近くまで行くと、網の中には無数の魚がいるのが見える。潮風で腕や体を焼かれた漁師たちは、岸辺に着くと、ただちに網を広げて、魚を選り分けていく。魚たちは、眼を大きく見開き、勢いよく飛び跳ね、プラスチック製の水槽の中へ入っていく。だが望まれない魚は外へ放り出されてしまう。男たちの間では、疲れたようなざわめきが、ほんの一瞬、立ち上がり、そして消えていった。
男たちの黒い腕、茶色い船板、網の中で動く、白い腹をした魚たち。彼女たちがその側に立つや、サリーの色は鮮やかに際立ち、目に優しく、しっかりと焼き付けられていく。色彩を施された水槽、乾ききった砂。広大な海の側に広がるその岸辺では、多彩な色が紡ぎ出されて、それらは次々と心と記憶に刻みつけられていく。
一匹の黄色い魚が砂浜へ放り出された。
萎れて散りゆく葉のような、鈍い黄色をしたその魚の体には、黒い斑点が散らばっていた。よく見ようとして腰をかがめると、それは身震いして、空中へと飛び跳ねた。魚は、苦しそうに喘ぎ、口を閉じて、また開いている。熱い砂の上で、体を震わせ、飛び跳ねている。
男たちは迅速に、能率よく魚を仕分けていく。
黄色い魚は、水を求めて、もがきながら、口を開き、そして閉じる。まるでジャラジャのように。
あまりにも生き急いだ幼な子、ジャラジャよ。お前は、身をよじり、がむしゃらにこの世に生まれてきた。彼女の名前は既に決められていた。ジャラジャ、水から生まれた者。だが彼女は保育器に入れられなければならなかった。私はその部屋の外に立ち、ずっと彼女を見続けた。血の気の失せた唇、丸く見開いた眼。彼女は、時々、口を開けて、閉じ、そしてまた開けた。あたかもミルクを吸うように。
電気火葬炉からアルンが持ち帰った灰は、小さな骨壺に入れられていた。モヘンジョダロやハラッパ遺跡の土器を小さくしたような、その壺の狭い口は、一片の布によって塞がれていた。
「どうして口を閉じてるの?」
「どの口のことだ?」
「壺の口よ、それを開けて!」
「アヌ、この中には灰しかないんだ」
「中を見たいの、さあ、開けて!」
「アヌ…」
「口を開けて!だって、その口は…」
苛むようなすすり泣きが響き、布が取り除かれると、そこには壺の小さな口が現れた。
この小さな海の中に彼女の灰はあるのだ。
海までは幾らかの距離があったが、黄色い魚は、喘ぎながら、水を求めて、そちらへ向けて跳ねていく。だがもはやその口は、空へ向けて大きく開かれている。熱い砂から手で持ち上げたが、それは喘ぎながら、身をよじらせて、指の間から落ちていった。葉で包んで持とうとしたが、やはりそこからも落ちてしまった。
波の間で遊んでいた漁師の男の子が、こちらへと帰ってきた。
やってきた彼に、私はマラーティー語で呼びかけた。
「イッカデ、エ(こちらへ来て)、あなた、この黄色い魚を海に帰してくれない?」
少年は大声で笑うと、魚の尾をつかみ、海へ向けて走り出した。私もその後を追って駆けていく。打ち寄せた波の頂に、彼は静かにその魚を置く。魚は、ほんの一瞬、家路を見失った酔っ払いのように、水中でもがいていたが、やがて口を大きく開くと、勢いよく水を吸い込み、尾びれを動かし、波の上に飛び跳ねた。そしてふたたび元気よく尾びれを動かすと、それは沖へ向けて泳いでいった。鮮やかなその黄色い姿は、しばらくの間、波の間にはっきりと見えていたが、やがて灰白色の混じる青い海と一つになり、その中に消えていった。
注:ジャラジャ(水から生まれた者):女神ラクシュミーのこと。「蓮」という意味もある。
注:マラーティー語:インドのマハラーシュトラ州の公用語。
著者 アンバイ(本名:C.S.ラクシュミー)1944年、インドのタミル・ナドゥ州に生まれ、ジャワハラル・ネルー大学で学位を取る。現在ムンバイで夫と暮らしている。女性問題を扱った小説を多く書いている。本編は、著者の許可を得て翻訳しました。