緑の幻想

踏みしめる夏草は

わたり行くものを緑で覆う

下界より隔てられた幻想に

しばし裸体を遊ばせる

そよぎ来る午後の夏風に

草木はさざなみの如く答え

臨むが如く

陽炎がたちのぼる

麦わら帽子をかぶった少女がすぎゆく

リボンのひもが踊っていますよ

照り輝く笑顔が

緑のまにまに見え隠れする

照り返すように喜びの歌を

夏の光に語りかける

  腕をのばし

  あなたに触れましょう

  帽子をとって

  そよ風に髪をなびかせましょう

  少しスカートを持ちあげ

  少し首を傾けて

  あなたにあいさついたしましょう

恥ずかしげな蕾にささやきかける

愛くるしい息吹が吹きかけられる

蕾は少しためらったあとで

くすくす笑いながら

緑のガウンを脱ぎだした

  心の奥にしまった秘密を

  今とばかりに語りだす

  解き放たれた太古のいのちは

  創世記の頃からの

  語り継がれた記憶を蘇らせる

緑に満ちた草原に

生あるものの喜びの歌があふれる

この地球に存在する

あらゆる段階の感情がわきたってくる

  身をまとう下着の白は 純潔の象徴

  燃えるような赤は 恋の情熱をあらわし

  のどを潤す水色は 悲しみの涙のしるし

  明るく輝く黄色は 幼子の無垢なる魂

  大空に広がる青は 青年の茫々たる望み

  凍えるコンクリートの灰色は 人生の疲れた色

  大木を覆う茶色は 老人の枯淡の心境

  笑いかけるようなピンクは ピエロの演じる心

  王の衣の紫は 高貴な魂の輝き

  暖炉に燃える橙色は 家族の温もり

  夜空を染める黒は 人生の深い意味を表す

  そして緑は

  見るものを潤し

  生けとし生けるものに安らぎを与える

  母の思いです

もう日が暮れますよ、旅人さん

今日の宿はあるのですか?

笑いかける少女の赤いささやきに

僕は緑の大地に呼び戻された